むしゃなび特集/2006年10号/伊達市室蘭市を含む西胆振のポータルサイトむしゃなび

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■ むしゃなび特集 2006年10号 ■
中島の巨木とエゾシカに出会う 洞爺湖中島ツアー [2/3]
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遊覧船でエゾシカに会いに


大観光スポット「洞爺湖エリア」

 伊達市内から車で約30分。白い噴煙をあげる昭和新山を間近に眺めしばらくすると、ドーナツ型の湖が眼下に広がります。ドーナツの穴の部分にあたる湖中央には4つの島があり、中島と呼ばれ親しまれています。温泉街の桟橋からは観光汽船が出港し、30分ごとにこの中島との間を結んでいます

洞爺ガイドセンター

 この洞爺湖エリアの自然を満喫できるツアーを主催しているのが「洞爺ガイドセンター」です。中島や、周囲の滝などのネイチャーウォッチングやカヌー体験、冬はスノーシューをはいて雪遊びに野鳥観察など、一年を通じて様々な体験ができます。ハードな冒険というよりも、自然の中でゆったりとした時間をすごそう、というツアーが多く子どもも参加できるのが魅力です。
 


 今回は、洞爺ガイドセンターの人気コース、「エゾシカ&巨木ウォッチングツアー」を、同センター代表の小川裕司さんに案内していただきました。

エメラルドグリーンの湖面に感激

 洞爺湖温泉街の桟橋より洞爺湖汽船に乗船し、船内からの景色を楽しむこと約20分。島と島の間を通り抜け、船が大島の桟橋に近づくと、びっくりするほど美しいエメラルドグリーンの湖面が現れた。ひさびさの快晴で、光が透き通るように明るく、美しい。1羽のコブハクチョウと、大きな魚の群れが出迎えてくれた

船内アナウンスで中島の歴史などの解説が流れてくる。録音かと思いきや、実際にマイクをにぎってスタッフが解説してくれていて、なんだか新鮮。

エゾシカに会う

 降り立った大島は周囲約10キロ、標高370メートル。昼間は人が滞在するが、夜と冬期は無人となる。
 森林科学館横の緑鮮やかな芝生の公園をぬけ、いざ散策コースの入り口へ。案内板でコースを確認し、フェンスを越えると、大きな針葉樹の林が広がっていた。
   
「あそこに見えますねえ」小川さんがのんびりとした調子で指を差す。遊歩道から数メートル奥にエゾシカが。人に警戒している様子はなく、数頭が優雅に座っているのが見える。野生のシカに会えるかも!と気負っていたのが、手の届きそうなところにいて、あまりのあっけなさに気が抜けた。
 「ここのエゾシカは、約50年前に人が持ち込んだものが放れ増えたもの。今では100頭以上います」との小川さんの解説に耳を傾ける。
 「北海道の普通の山の様子とちょっとちがうでしょう?何が違うかわかりますか?」と問われあたりを見渡してみると、地面が茶色なのが気になる。「クマザサがないでしょう」と言われ、そういえば、と思い当たった。なんと、あの固そうなササを、エゾシカが食べ尽くしてしまったそうだ。
 「このあたりでのんびりしているシカは、観光客からビスケットなどもらっているから、冬になると大変ですよ。自力で餌を探す術を知らないと生き残れないんです」と小川さん。ふうん。エゾシカの世界も厳しいんだなあ、と思いながら歩いていった。


植生の変化

 針葉樹の林を抜け、ゆるやかな坂をのぼり広葉樹の林へと移っていく。緑の葉を通して差し込む光が美しい。あちこちに広がる緑の草は、すべてシカが好まない種類。つまり、食べられる草は食べ尽くし植生そのものが変化しているのだ。


 小川さんによると、中島のエゾシカは、競争が激しくて他の場所では普通食べないような植物も食べ、体のサイズも小さく年ごとの頭数の変化も激しいという、なかなか厳しい世界のようだ。
これなんの跡だ? 答えは、シカが角をこすりつけてできた跡


 このような環境は稀で、中島のエゾシカについては、学術調査が重ねられているそう。かわいいバンビといったシカへのイメージが変化した。
シカの通る道が獣道として続いていた。

大平原

 整備された、ウッドチップの遊歩道をゆったりと歩く。セミのぬけがらや、エゾシカの骨を発見したり、鳥の鳴き声を聞いたり、大きなカツラの木を眺めたり。楽しく散策しながら歩いていると突然広い空間にでる。小さな島だと思っていたのに、こんなに広い空間があるなんて。
 
遊歩道のところどころに大きな木が。
 解説板によると、広さが約8ヘクタールの通称「大平原」。1950・60年代に植林したトドマツなどが枯れてしまった場所で今は広い草原に。広い平原の向こうの山と山の間から、まだかすかに雪の残る羊蹄山が見える。その姿が堂々としていて、見入ってしまった。それにしても、船で湖を渡りさらにかなり歩くこんな場所まで人の手が入っていたことに驚いた。

アカエゾマツの巨木

 お目当ての最終ポイントは、アカエゾマツの巨木だ。この木は林野庁が指定する「森の巨人たち100選」の中の1つ。しかし2004年の9月の台風の強風で根こそぎ倒れてしまい、現在は、倒れて枯れてしまった木しか見ることが出来ない。樹高が31メートル、幹の周り399センチ、推定樹齢は350年から400年。威風堂々とした姿は、遠くからでもよく目立ったそうだ。 
 

 大平原からこのアカエゾマツに至る少し手前に、少し開けた広場のような場所がある。カツラの木などの広葉樹がまばらに生え、とても気持ちいい。しめやかで、静かで、ちょっと神聖な感じさえするところで、そこにずっといたいような気持ちになった。このコースの中では一番気に入った特別な場所となった。

 小川さんと歩いていると、今までは見過ごしていたことに目がとまる。いろんなことを教わって、次から次へと好奇心が湧いてくる。別々だと思っていたものがつながって、今までは考えたこともなかったような、新たな世界が見えてくる。
 

 自然の声を伝え、それがあなたには、どう見え、どう考えますか?、と、案内される側が自分の力で考えられるよう導いてくれる。素敵な案内人だ。
どこにつづいているのだろう?直径10センチほどの穴が遊歩道のわきの斜面にポコポコあいている。これは風穴といって、中から涼しい風が吹き出してくる火山性地形のひとつ。このおかげで、そのあたりは気温も低い。
 そんなネイチャーガイドの小川さんが繰り返し言われていたのは、「守るためには、まず知らねばならない」ということ。いつも見慣れた中島について、実はなんにも知らなかったことに改めて気付いた。
 午前中の短い時間のツアーだが、緑の中での心地よい時間だけでなく、新たな視点をずいぶんいただいた、中身の濃い体験ツアーとなった。またゆっくり訪れたい。

●中島巨木ツアーについてのお問い合わせは
洞爺ガイドセンター
〒049-5802
北海道 洞爺湖町洞爺町402
電話 : 0142-82-5002   FAX : 0142-87-2421
eメール mail@toya-guide.com
ホームページ http://www.toya-guide.com/

●洞爺湖森林博物館
洞爺湖の中島にある博物館。洞爺湖遊覧船で20分。洞爺湖周辺の動植物や自然を、動物や昆虫などテーマ別に解説を行っている。ジオラマ、剥製や標本写真、パネルなどの展示。

開館: 4月から11月の9時〜17時
料金: 大人.200円 小人.100円(15名以上は団体料金で10%割引)
所在地: 洞爺湖大島
お問合せ: 0142-75-4400

*洞爺ガイドセンターによる クラフト体験もあります
エゾシカクラフト 本物のエゾシカをみながら小枝でエゾシカをつくろう
リーフプリント 木の葉でオリジナルランチョンマットをつくろう


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