アートするひと(14)映画監督 坪川拓史/伊達市室蘭市を含む西胆振のポータルサイトむしゃなび

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◆ アートするひと(14)映画監督 坪川拓史 ◆
掲載日:2012.11.20 [2594]

 
映画監督として長編3本、短編2本を製作してきた坪川拓史さんは現在室蘭市在住。最新の映画「ハーメルン」の舞台は福島で、撮影の延期などを経て完成したばかりだ。 
 
昨年室蘭に越して来てから、よく釣りに行っているという坪川氏。長万部で育った少年時代もよく釣りに行っていたそうだ。 
 
 
また自然の中で様々なものに出会ったが、そのひとつはカラスのヒナ。拾ったヒナを育て、羽ばたき方まで教えた。そのカラスは巣立ったあとも毎年自分の子供を連れて来て、同じ場所で飛び方を教えていたという。嘘ではない本当の話。 
近所では「坪川さんちのカラス」で知られる巨体のカラスで、その辺り一帯のボスだったそうで「長万部のカラスはみんなうちのカラスの子孫です」と言い切る。 
 
そうした一方、小学校5年生のときには劇団を立ち上げ、脚本を書き、仲間たちと演じた。「おしんと赤ずきんを足したような話で、おばあちゃんに大根飯をとどけに・・・」 
 
そんな坪川氏、十代の終わりに上京。都会の全てにカルチャーショックを受ける毎日。しかし「とにかく東京へ行くため」に入った学校はすぐにやめ、同じ寮の生徒と喧嘩をしたこともあり寮から飛び出しホームレス生活をすることになった。 
「一人暮らしなんかしたことがないし、どうすれば暮らしていけるのかも分からなかった。親には退学したことは内緒でした。頼る人もいなくて友達はホームレスのおじさんくらい」 
 
 ある日、ひょんなことがきっかけで演劇を見に行く機会があった。劇団「オンシアター自由劇場」(1996年解散)の芝居に感動し、入団オーディションを受けた。 
面接で「何か楽器は演奏できますか?」と聞かれ、咄嗟に「アコーディオンが弾けます」と出任せを言った。そのせいか合格し、研究生になることができた。あわててアコーディオンを入手して練習をはじめる。 
「あのときティンパニーをやってます、と言ってたら今ごろティンパニー奏者だったと思う」。
 
研究生となった坪川氏。役者の道を歩みはじめた矢先、劇団の近所にあった映画学校の生徒たちが撮っていた映画に役者として参加。しかし演出などにも口を出し、ついに作っている学生から「だったら自分で撮れよ!」と怒鳴られた。「じゃあ撮るよ!」と言葉を返し、それから自分で映画を撮りはじめることになる。しかも、その時に「撮れよ」と言ったカメラマンはそのまま坪川作品のカメラとして、長い付き合いになることに。 
 
1995年、初めて作った無声映画「十二月の三輪車」では弁士に俳優の片岡正二郎さんを迎え完成させ、また、片岡氏のバイオリンと歌を中心にした楽団「くものすカルテット」で音楽活動をはじめ、来年で15年目を迎え、ファンを増やしている。 
 
2005年に完成した初の長編作品「美式天然(うつくしきてんねん)」は、「撮るよ!」と言ってから九年間をかけて完成し、トリノ国際映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞した。 
 
 
 
 
 
坪川氏にとって、映画による表現とはどんなことなのかを問うと、 
「言いたいことをどれだけオブラートに包んで出せるか。それが表現というもの」。 
言葉は伝えるためにあるのだが、直接的に言葉にしてしまうとかえって伝わらない場合がある。表現とは本当の意味で伝えること。伝わるには、受け取る側が、受け取る態勢になったときに溶けるオブラートが必要。その人が、すぐには分からなくても、その人にとっての「その時」が来たときに気がつくための仕掛けがオブラート。そんな作品を作っていると坪川氏は言う。 
 
 
 
 
 
坪川映画の中には、ゆったりとした風景と時間が流れ、その美しい行間に、観る者の想像力が染み通ってゆくよう。それぞれの受け取め方のできる、押しつけではない作品に思える。 
 
「現代の映像(テレビも含め)は説明しすぎていて、想像力などいらないものが多い。ただ受け取るだけでいいものばかりが目立っている気がする」。子供たちが想像力のない人間になってしまうように思われ、二児の父親としても危惧しているようだ。 
 
今の時代しか知らない者は、機械(デジタル)の奥に人(アナログ)がいるということを実感出来なくなっていたり、想像できないのではないだろうか。 
「僕が育った時代はまだ想像力が必要な作品や、日常にも昔ながらの良いものが残っていて、丁度、切り替わっていく時代だったような気がします。幸いなことに僕は、今と昔、そして変化の過程を知っていますが、その後、人の気配のする良いものが消えていきました」 
彼の映画には、どれも、消されてゆくものと、けれどもそこには共に生きる人物(や生きものや物語)があるということが描かれている。 
 
「僕の映画は、観る人が想像する余地のある映画です」と坪川氏。 
 
どうして映画を作るのか、という問には、 
「分からないんですよね。でも、そういうものに呼ばれてるんだと思います。廃校や、いちょうの木なんかに」 
消えつつあるものに呼ばれ、撮った映画たちの中には、今は取り壊されてしまった映画館や、廃校、劇場、そして自然風景が姿を留めている。 
 
 
 
「そういえば、本当は、絵本作家になりたかったんだ」と坪川氏。「絵を描いてみたら、すぐに絵の才能がないとわかって挫折したんですけど。それに、自分で描かなくても周りに面白いものを描く人がいっぱいいたので、物語を作って描いてもらったら、しっくりきたんで、これだなと思いました。絵を描けないから映画監督になったのかもしれない」 
 
福島の小さな町を舞台にした最新作の「ハーメルン」は廃校になった学校をめぐる人々の物語。来年の秋頃には全国公開の運びとなりそうだ。 
 
 
(2012年の春、室蘭、伊達で、坪川監督全映画上映会が行なわれた。写真は室蘭会場にて) 
 
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坪川拓史(つぼかわたくし) プロフィール 
 
1972年生まれ。長万部町出身。室蘭市在住の映画監督。アコーディオン奏者。「美式天然」で2005年トリノ国際映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞。長編第2作目「アリア」で、フランスKINOTAYO映画祭最優秀観客賞、他。長編第3作「ハーメルン」は福島県にて撮影を終えて現在公開準備中。また自作の映画にも登場する楽団「くものすカルテット」でアコーディオンを弾く。世界から新作を期待される若手監督として注目されている。次の作品は室蘭を舞台にと考えている。
 
ホームページ http://www.lavalse.jp/works/
メール kumokaru@yahoo.co.jp 
 

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掲載作品 
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※記事の内容は取材時の情報に基づいています。(取材2012年)  

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